飲食ではなぜブラック が多いと言われる? 原因の解説
目次
外食産業は日本経済の中核を担う業種といっても過言ではありません。一方で飲食業界にはブラック企業が多いという負のイメージも。農林水産省食料産業局の調査でも他の産業に比べて過重労働が多く離職率が高いといった課題が指摘されています。
そこでここでは飲食業界にブラック企業が多い理由をはじめ、飲食店への就職や転職を志す際にブラック企業を見極める方法や入社した場合の対処法などをくわしく解説いたします。
なぜ飲食店にブラック企業が多いのか
「ブラック企業」はかつては暴力団が関与する反社会的企業の俗称でしたが、現代では労働者に不利な雇用条件と劣悪な労働環境のもとで従業員を酷使する企業を意味します。
「ブラック企業」という名称に関する法律的な定義はありませんが、労働基準法を所管する厚生労働省は一般的な特徴として以下の3点をあげています。
- 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す。
- 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い。
- このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う。
上記「3」の「労働者に対し過度の選別を行う」とは人事権の濫用によって労働者に不合理な待遇差を生じさせること。具体的には合理的な理由もなく解雇や降格、転勤などを命じること、退職届を提出しないのに退職者扱いすること、などがあげられます。
飲食店にブラック企業が多いのは、それらの条件に当てはまりやすい業界特有の経営環境があるからです。次項ではその問題について具体的に解説いたします。
閉鎖的労働環境の悪化=ブラック企業
飲食業界は業務運営が店舗単位で独立する特性上、従業員が店舗という閉鎖的労働環境で長時間勤務を強いられるケースが多く、人間関係や雇用環境の悪化によってブラック企業化しやすい、という問題点が指摘されています。
離職率が高い
飲食店が抱える雇用問題のひとつが離職率の高さ。厚生労働省のHPデータから算出した資料によると平成26年度の大学卒業者における就職後3年目までの離職率は宿泊業・飲食サービス業飲食店で50.2%。これは全産業平均の32.2%よりも大幅に高い値です。
離職率が高い企業や店舗は慢性的な人手不足になりがちです。従業員の早出や居残りなど所定外労働が増加すると経験不足の新人スタッフを現場に投入せざるを得なくなり、労働環境が悪化してさらなる離職者の増加を招くという負のスパイラルに陥ります
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混み具合により業務量が不規則に
飲食業界で長時間労働が常態化しやすい最大の理由は、食事時など特定の時間帯に仕事が集中してしまうこと。混み具合も天候などの外的要因によって変わるため業務量が不規則で合理化が難しく、雇用環境が悪化しがちです。
利益率の低さによる影響
一般食堂を含む外食産業の多くは「薄利多売」のビジネスモデルが主流。経費の中で人件費が占める比率が高く、食材費(Food)と人件費(Labor)を合わせた「FLコスト」をいかに削減するかが飲食店経営の重要な課題とされています。
世界情勢に起因する原材料価格の急騰などによって多くの飲食店が利益率の低下に見舞われています。その影響で以下に示すような苦況に直面している店舗も少なくありません。
人件費の削減による人手不足
コロナ禍の影響で求職者の多くが飲食業界の将来を悲観して就職や転職を避ける動きが広まりました。飲食業界も利益率を上げるためには人件費を削減する以外に方法がなく、結果的に離職者が増加して人手不足に拍車をかける事態となっています。
長時間勤務
飲食店の多くは一般企業よりも営業時間が長いうえに、開店前には仕込みを、閉店後には清掃や売上管理などを行わなければなりません。かといって営業時間を短縮するとライバル店に顧客を奪われるため、長時間勤務が常態化しています。
休日が取得しづらい
外食チェーンのほとんどは年中無休。人手不足で盆正月や連休も休めないのはつらい、という従業員の本音も聞かれます。個人営業の飲食店も定休日には無休の大手に客を奪われるために休日が取得しづらいのが現状です。
給与が上がりにくい
利益率が低い業界では、当然ながら給料も上がりません。前述した「FLコスト」の概念でもわかるように、飲食業界では「人件費はコスト=経費である」という認識が根強く、経費である以上削減は不可欠という安易な発想にいたる経営者も少なくありません。
ブラック企業を見極めるには
外食産業や一般飲食店の全てがブラック企業というわけではありませんが、それを見極めるのは簡単ではありません。就職希望先がブラック企業かどうかは、求人情報で次のようなポイントをチェックすればある程度は見極めることも可能です。
給与額が不自然に高い
ブラック企業なら給与額は低いのでは?と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。求人情報に低い給与額を掲載すると希望者がいなくなってしまいます。そこで多くのブラック企業は希望者を集めるために給与額を高めに設定するわけです。
たとえばブラック営業の求人では現実には達成できないような成果給を基本給に含んでいる場合があります。また固定残業代制度を悪用して、「みなし残業手当」を基本給に含めることで給与額を水増しするケースも。不自然に高い給与額には注意が必要です。
募集期間が長く採用人数が多い
人材募集期間が長い店舗は就職希望者に避けられているか離職率が高い可能性が考えられます。また店舗の規模に対して採用人数が多すぎる場合も離職者が多いブラックな職場だと考えて良いでしょう。
ブラック企業に入社した場合の対処法
不幸にもブラック企業に入社してしまった場合はがまんしたり泣き寝入りしたりせず、対処できることはするべきです。労働環境の改善が可能であれば従業員同士が結束して経営者に改善を求めましょう。
次に求人票に記載された雇用条件が実際とは違っていたという場合は求人票を掲載していた求人サイトやハローワークに相談しましょう。企業側があまりにブラックすぎてストレスを感じる場合は早めに転退職することも賢明な選択です。
ちなみにパワハラなど職場におけるハラスメントに関しては労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行によって企業規模を問わず対策が義務化されました。そのほか賃金等の未払いや長時間労働など労働基準法に違反する場合は労働基準監督署に相談しましょう。
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ブラック企業になりにくい業態
飲食店にブラック企業が多いといっても、全ての飲食店がブラックというわけではありません。ブラック企業になりにくい業態としては定期的に休日が取れること、残業手当がきちんと支払われること、勤怠管理ができていることなどがあげられます。
また労働基準法をはじめとする法令を遵守していること、企業倫理や社会的な良識に沿った経営活動を行うコンプライアンス意識が高いこと、従業員の福利厚生を重視していることなども重要なチェックポイントです。
まとめ
ブラック企業とは劣悪な雇用条件と労働環境のもとで従業員を酷使する企業のこと。飲食業界は利益率が低く長時間労働が常態化している特性上、労働環境がブラック化しやすい傾向があります。
就職や転職の際にはブラック企業に入社しないように注意すること。不運にもブラック企業に就職してしまった場合はがまんや泣き寝入りせずに行動することをおすすめします。
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