2015年には、英国キャサリン紀が産後7時間で退院をした、というニュースが話題になりました。公式発表はないものの、あまりのスピード退院に、欧米では既に主流である出産後の回復が早い無痛分娩で出産したのではないかという憶測が飛び交いました。

時事ドットコムニュース(「無痛分娩、本当に大丈夫?~後悔しないために知るべきこと~」)によると、米国やフランスでは、6割以上の妊婦が利用している一方で、日本ではたったの1割未満。日本での普及率はまだまだですが、「無痛分娩/和痛分娩」への関心が高まってきています

今回は、「無痛分娩」について日本の現状やメリット・デメリット、そして産院を選ぶ時に確認するポイントなどについてお伝えしていきます。

「無痛分娩」とはどんな出産方法?

無痛分娩とは、麻酔を使用して出産のときの痛みを和らげながら出産する方法のことです。出産の痛みは、子宮の収縮による陣痛と、赤ちゃんの頭によって、膣や外陰部などが押し広げられるときの痛みがあり、これら痛みを麻酔によって和らげます。

無痛分娩で用いられる鎮痛法には2種類あります。

鎮痛法①硬膜外鎮痛

1つ目は、硬膜外鎮痛と呼ばれる方法です。硬膜外腔と呼ばれる脊髄に近い部分にチューブを入れて麻酔薬を投与する方法で、無痛分娩のときだけではなく、一般的な手術や、術後の鎮痛目的で日常的に使われている方法です。

鎮痛効果が強く、赤ちゃんへの影響もほとんどありませんが、やや難しい処置です。現在、多くの国でこの方法が無痛分娩の第一選択となっています。

鎮痛法②点滴による鎮痛

2つ目は、点滴による鎮痛です。点滴により静脈から麻酔薬を投与する方法です。鎮痛効果は弱いですが、事前の処置はとても簡単な方法です。麻酔薬は、静脈からママの脳へ届くのはもちろん、微量ながらも胎盤を通して赤ちゃんの脳へも届きます。そのため、この方法の場合、ママも赤ちゃんも眠くなったり、呼吸が弱くなったりすることがあります。薬の投与を中止すれば、ママへの影響は長く続かないですし、赤ちゃんも薬の影響がなくなれば元気になります。

無痛分娩の費用、いくらかかる?

無痛分娩の費用は、健康保険を利用することができないため、基本的に自己負担となります

少し前のデータですが、平成16年に日本産科麻酔学会は会員が所属している分娩し施設を対象に無痛分娩についての調査を行いました。「硬膜外無痛分娩」を行っている46施設からの回答によれば、費用は自然分娩の費用に無痛分娩の管理料や麻酔代などが上乗せされます。プラスでかかる費用は施設や病院などで異なりますが、個人施設で0~5万円、一般総合病院で3~10万円、大学病院では1~16万円という報告があります費用は医療機関によって大きく異なるので、あらかじめ事前にきちんと調べておく必要があるでしょう。

日本ではまだまだ普及していない無痛分娩の現状

無痛分娩は歴史が古く、ビクトリア女王や歌人として有名な与謝野晶子はこの方法で出産していると言われています。しかし、冒頭でお伝えした通り日本ではまだ1割未満と、なかなか普及していないのが現状です。

日本産婦人科医会の2017年に実施したアンケートによると、全分娩中、無痛分娩は6%という報告があります。実は、無痛分娩は海外では盛んに行われており、アメリカでは2008年のデータで約60%、フランスでは2010年のデータで約80%の女性が無痛分娩を選択したという報告がされています。

2018年2月には、厚生労働省が専門研究班を立ち上げ、無痛分娩を安全に行うために望ましい体制を求めた提言書を発表しました。今後、日本で無痛分娩が普及していくには、安心して受け入れる体制を整えられるかどうかが非常に重要でしょう。

無痛分娩のメリット・デメリットを理解しよう!

それでは、無痛分娩のメリットとデメリットについてお話しましょう。

無痛分娩のメリットとは?

まずはメリットです。第一に、出産の痛みが和らぐことです。無痛分娩は、完全に痛みがなくなるわけではありませんが、痛みが和らぐことで、スムーズにお産がすすみ、体力の消耗が少なくて済みます。産後の回復が早かったという感想を挙げるママもいらっしゃいます。

お産の痛みに耐えている時、赤ちゃんに届く酸素が少なくなるという報告があります。これは、強い痛みがあると、ママの体の中で血管を細くする物質が分泌されていることが原因だと言われています。また、陣痛のときに呼吸を忘れてしまうことも影響していると考えられます。少し減る分には問題ありませんが、妊娠高血圧症候群で赤ちゃんへの血流が減少している場合は、酸素量が減少してしまう可能性があります。無痛分娩を受けたママは、陣痛中の酸素消費量が少なく済むという報告があるため、心臓や肺が悪いママには、無痛分娩を勧めるケースもあるようです。

無痛分娩のデメリットとは?

では次に、デメリットについても知っておきましょう。

無痛分娩は、先述のとおり麻酔を使用して行います。そのため、麻酔による合併症のリスクを伴います。よく起こる症状としては、

①足の感覚が鈍くなり、力が入りにくくなる

②低血圧により、気分が悪くなり、赤ちゃんも少し苦しくなることがある

③尿意を感じにくくなる、尿が出しづらくなる

④かゆみ、体温上昇など 

上記が挙げられます。

その他、頻度としては稀ではありますが、針を刺したりチューブを入れることにより、頭痛が起こることがあります。また、麻酔薬が誤って血液中に入ってしまったり、脊髄くも膜下腔に入ってしまうこともあります。非常に稀ではありますが、投与されるべき場所などに血のかたまりや膿ができてしまうことで神経を圧迫することもあるため、血液がかたまりにくい体質の方や、注射する部位、全身にばい菌がある場合は、無痛分娩ができないケースがあります。麻酔の効果によっては、陣痛が弱くなるケースもあり、そのためにお産がスムーズに進まず、吸引や鉗子を用いた器械分娩になることが多くなるとも言われています。

また、先述した通り、無痛分娩は保険が適用されないため、自然分娩よりも費用が高くなります。通常の出産費用にプラスして費用がかさむことを覚えておきましょう。無痛分娩により、無事に出産したママがほとんどではありますが、中には命の危険が伴ったり、後遺症が残るケースも報告されています。メリットとデメリットをしっかりと理解した上で、出産方法を決める際には医師や家族と十分に話し合いをしておくことが大切でしょう。

参考:日本麻酔学会、やはたウィメンズクリニック 

産院を選ぶ時に確認したいポイント

ここまで読んだ方で、自分は無痛分娩を希望したい、と思った方もいるのではないでしょうか。そんなとき、安全な無痛分娩をするには、どのように産院を選べばいいのでしょうか?

そんなに早く?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、無痛分娩を検討している場合は、初期の妊娠検査時に、無痛分娩を検討していることを担当医、もしくは看護師、助産師に話しましょう。無痛分娩を行っていない施設の場合は、行っている施設を紹介してくれることもあります。

無痛分娩に対応している施設自体がそれ程多くない上、受け入れ可能な人数があらかじめ決まっている場合も多く、人気の病院では先着申し込み順を採用している場合もあります。さらに紹介状が必要な場合もありますので、早めに動くことが大切です。後述で、都内の産院をご紹介いたしますので参考にしてください。

無痛分娩の方法を確認する

施設によって無痛分娩の方法には大きな違いがあります。そのため、なるべく早いうちに無痛分娩の希望を伝え、対応している無痛分娩の内容の説明をしっかりと聞いておくことが重要です。

妊婦と医師の距離が近い診療所は、外来の待ち時間も病院と比べて短いため、忙しい妊婦さんにとっては便利でしょう。しかし、総合病院よりも人材や環境面で劣っている部分があります。無痛分娩に特化した診療所では、日頃から病院連携しているところもあり、万が一の事態に対応できるようになっている産院もあるのでチェックしておきましょう。

麻酔科医師が麻酔を行うかどうか

また、無痛分娩の経験を積んだスタッフが充実しているかどうかも非常に重要です。無痛分娩は特殊な医療行為であるため、専門である産科麻酔科医が行うのが望ましいとされています。しかし、産科麻酔科医が少ないため、産科医が行う場合もあるようです。

現在、「麻酔科標榜医」という厚生労働省が定めた資格があり、麻酔科医だけではなく、外科や整形外科、産婦人科などの医師がある一定の経験を積むことによって与えられます。無痛分娩の実績や麻酔科医師の体制を確認することも重要です。

対応日時について、24時間体制か否か

産院によっては、対応してくれる時間が異なる場合もあります。大きく分けて、24時間対応している産院と、麻酔科医が勤務している日中の時間帯のみ、の2パターンです。24時間対応している場合は、陣痛がきたタイミングで無痛分娩の処置にうつることができるので、より自然に近い状態でお産に望むことがきます。

一方、時間帯が決まっている場合は、出産予定日の1~2週間前から入院し、陣痛促進剤を使用して計画分娩を行います。陣痛促進剤を極力使用したくない場合は、24時間対応している産院を選ぶのがよいですね。

無痛分娩に対応している都内、首都圏の産院10選

無痛分娩が行える都内、首都圏エリアの産院をいくつかご紹介いたします。

山王病院/山王バースセンター(東京都港区)

硬膜外麻酔による方法で無痛分娩が行われます。基本は計画的な無痛分娩ですが、予定外の入院にも24時間対応しています。産科医と産科麻酔科医が連携しており、安全に分娩が行える体制が整っています。さらに山王病院とも連携しているため、合併症による対応も速やかに行うことができます。産後、育児、母乳ケアも充実しています。

愛育病院(東京都港区)

硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔を用いた麻酔分娩、鎮痛剤の注射による二種類の無痛分娩を採用。2013年より麻酔分娩を24時間対応できるようになっています。 麻酔分娩を希望する妊婦さんには麻酔分娩学級を受講することになっています。

東京マザーズクリニック(東京都世田谷区)

2012年の開院以来、硬膜外麻酔による無痛分娩を実施しています。休日・夜間も施術可能で、24時間無痛分娩に対応しています。また分娩初期から麻酔を開始し、和痛分娩ではなく完全無痛分娩を採用しているのが特徴です。

杉山産婦人科(東京都世田谷区)

無痛分娩、和痛分娩、立会い分娩を選ぶことが可能です。麻酔科指導医が24時間医体制でサポート。また栄養課に専属シェフがいて、栄養面も考慮しつつレストランのような食事をとることが可能です。アロマ/エステスタッフが常駐しており、分娩後に施術を受けることもできます。

東京女子医科大学病院(東京都新宿区)

一般合併症や産科合併症などを持つ妊産婦さんに対しても、合併症の管理を行っており、ハイリスク症例に実績があります。ハイリスク症例の無痛分娩には都内だけではなく全国から多くの搬送があるのが特徴です。

田中ウィメンズクリニック(東京都世田谷区)

100%無痛分娩のクリニックです。2016年時点で13000人以上の分娩実績があります。硬膜外麻酔による無痛分娩を行っています。出産時はもちろん、妊娠11週からさまざまなオリジナルのプログラムが用意されており、周産期のサポートが充実しているのが特徴です。

東京衛生病院(東京都杉並区)

24時間365日、土日祝日関係なく無痛分娩を行うことができます。分娩途中で耐えられなくなれば、途中で無痛分娩に切り替えることも可能です。毎月約137人が分娩、無痛分娩率は約96%となっています。食事は産後のからだにやさしい菜食を取り入れているのも特徴です。

順天堂大学医学部附属順天堂産科医院(東京都文京区)

2014年より産科麻酔チームを発足、現在では産科麻酔チームには4名の麻酔科専門医と1名の麻酔科認定医の専属スタッフを配して、24時間いつでも緊急の帝王切開と無痛分娩に対応できる体制を整えているのが特徴です。

井上レディースクリニック(東京都立川市)

常勤麻酔科医が対応する硬膜外鎮痛法により痛みを和らげる和痛分娩を採用。立ち会い分娩を推奨していたり、リラクゼーション効果が得られるように、考えられた音楽、呼吸法支援、照明のシステムで感動的なお産をスムーズにする分娩サポートシステムが特徴です。

聖マリアクリニック本院(横浜市戸塚区)
麻酔科医が常駐しているクリニックです。無料のシャトルバスを利用することができます。また、診療時間内であれば予約なしで診察してもらえるのも魅力的です。こちらの食事は、一流ホテル出身シェフによるお祝い膳となっており、美味しい食事が楽しみな妊婦さんにおすすめの産院です。

 

無痛分娩について、基本的な知識から、実際に行っている産院をご紹介いたしました。初めてのお産でわからない事だらけで不安に思う方も多いでしょう。一人で抱え込まず、担当医や看護師、助産師に相談してみましょう。

無痛分娩は、お産の痛みが和らぐため、痛みによる不安も取り除かれるでしょう。伴うリスクについてもしっかり理解し、医師からの説明を聞いておくこと、家族ときちんと話し合いをしておくことが大切です。ママも赤ちゃんも健康であることが最優先です。納得できるお産ができるよう、きちんと準備しておきましょう。


宮崎(峰)奈津季
管理栄養士、薬膳コーディネーター
大学卒業後、介護食をメインに扱う食品メーカーで営業を2年間経験。フードコーディネーターの倉田(ちゃら)と、2017年6月にフードユニット「ちゃあみー」として独立。料理教室やレシピ企画、開発、料理写真撮影、動画撮影などを経験。
現在はお菓子メーカーの商品企画、レシピ開発・撮影、記事・コラムの執筆、監修などを行う。