出張料理でママたちの悩みを聞いていると、「最近子供が味の濃いものを好んで食べるようになりました。前までそんなことはなかったのに…」という声を聞くことがよくあります。「このままいくと、味音痴になってしまうのでは!?」と心配になりますよね。筆者は、かつて料理や美味しさを扱う食品科学の研究を行っていました。この記事では、味覚、味の好みについて解説しながら、味の濃いものを好きにならないようにするにはどうしたら良いのか?年齢に制限はあるのか?といった疑問にお答えしたいと思います。

いつのまにか味の濃いものしか食べなくなって心配…

薄い味付けにすると食べてくれません。(4歳児のママ)

「子供が食べる料理の味付けは大人よりも薄味にした方が良いと聞くので、薄味を心掛けていますが、そうすると息子は全然食べてくれません。素材の味を生かした料理の美味しさは子供にはわかりにくいのでしょうか?ケチャップやマヨネーズのような味の濃い調味料をかけると食べてくれるのですが、塩分の摂りすぎが気になります。」

―子供には塩分の使用量を控えめにした方が良いというのは事実です。素材の味を生かした料理の美味しさは子供でも分かるはずですが、「甘味」や「旨味」が効いているものの方が美味しさを感じやすいのです。ケチャップやマヨネーズは、醤油や味噌などに比べて塩分量はかなり少ないですが、甘味や旨味を感じやすいため子供たちが好む傾向にあります。

ジャンクなものばかり…(3歳児の母)

「ウインナーやソーセージ、せんべい、お菓子といった味が濃くてジャンクなものばかり好んで食べています。栄養のある野菜や魚には見向きもしないので、食事の時間が本当に大変です。離乳食の頃はそんな傾向はなかったのですが…。」

―味が濃くてジャンクなものばかりというのは味覚だけでなく、ちゃんと栄養が摂れているかといった点でも心配になりますよね。子供の味の好みは大人よりも左右されやすいので、前までそんなことはなかったのにいつの間に?という変化も多いんです。

薄味だと食べない、味が濃いものばかり食べているというお子様は多いようです。いつのまに味の好みが変化した?という疑問の声もありますね。では、いつから味覚は発達するものなのでしょうか?味の好みをどうやって変えていけるのかも気になりますよね。

 

生まれた直後から備わる「味覚」、大人になっても変化していく「嗜好」

私たちの舌には味蕾(みらい)という味を感じるセンサーがついています。生まれた直後の赤ちゃんには約1万個の味蕾があり、その後急速に減少し、成人になると味蕾の数は7500個ほどになると言われています。生まれた直後には、「味覚」は生命維持に必須の機能として備わっているのです。

一方、「味の濃いものを好んで食べる」というのは、食べ物に対する好き・嫌いといった判断であり、長期的な学習や記憶によって左右されます。これは、味を感じる能力である「味覚」とは少し異なるもので、「嗜好」といいます。

生まれた直後に備わっている「味覚」に対して、「嗜好」は繰り返しの学習や慣れ、記憶といったことで大人でも変化します。皆さんも少しずつ苦手な味に慣れていった経験はありませんか?あるいはパーティーなどの「楽しさ」や、誰かに作ってもらって「嬉しい」といった感情と結びついた食べ物は、好き・美味しいと感じやすいですよね。味の濃いものばかり食べているという4歳のお子様も、食習慣によってその好みは変化していくので安心してください。

 

味の濃いものから薄いものを好きになっていくには

これまでお伝えしたように、味の好みは繰り返し・長期的な学習や記憶によって変化していきます。また、ポジティブな感情と結びつけるというのも、料理を好きになるために大事なポイントです。したがって、お子様に出す料理や、食卓の環境づくりについては、次のようなことを意識しましょう。

① 使用する調味料は少なくし、素材の味を生かすことを意識する

調味料が少ないと食べない場合には、無理せず少しずつ減らしていきましょう。素材の味を生かす料理については、ニンジンやサツマイモ、牛乳の「甘さ」や、魚介類の「旨味」、肉や魚の「脂・コク」を意識してみてください。

② 出汁を取り、旨味を効かせた料理を多く取り入れる

「旨味」は基本五味のひとつです。旨味という一つの味が加わることによって、他の味が薄くても食べやすくなります。出汁を効かせたあっさり料理を好むお子様はたくさんいて、毎回筆者も驚いています。手間のかからない出汁パックを利用したり、鰹節や昆布の水出しなどを上手に活用して、旨味をアップさせてみてください。

③ 楽しい食卓づくりや、褒めてあげるといったことを心掛ける

暗い雰囲気の中食べる料理は大人でも嫌ですよね。なかなか薄味の料理を食べ進めてくれなくても、ポジティブな感情とその料理が結び付いたら大きな一歩です。声をかけてあげながらコミュニケーションをとったり、少しでも食べてくれたら褒める、など食卓の雰囲気づくりを工夫してみてください。

④ 鮮やかな食品を追加して、色合いよく仕上げる

料理の美味しさには、味だけでなく見た目も関わります。意外に子供も見た目で料理を判断しているので、細かく野菜を切って彩りよく仕上げると食べ進めてくれることが多いですよ。

味の好みは変えられる!そのためには日々の食卓づくりが大切

味の好みは大人でも変えていけるもの。お子様の年齢に関わらず、取り組みを続けていくことで薄味の料理、素材の味を生かした料理も食べてくれるようになるはずです。そのためには、日々の食卓づくりがとても大切だということが分かりましたね。濃い味から徐々に薄い味へと好みが変化していくよう、料理の一工夫や食卓の雰囲気づくり、活発なコミュニケーションを心掛けてみてください。

 

ライター紹介 廣野沙織(管理栄養士)
お茶の水女子大学大学院にて食品科学を専攻し、調理を科学的に扱い美味しさを追求する研究を行った。研究の傍ら、レシピ開発や執筆活動に従事し、在学中にフリーランス管理栄養士として開業。出張・作り置きサービス「シェアダイン」の料理家として、主に子育て世帯の食事に向き合い、献立の提案・調理・レシピ提供等を行っている。