千葉ロッテマリーンズ、錦織圭、浅田真央、高梨沙羅など数々の一流アスリートの栄養管理を担当した細野恵美氏が教える「勝負メシ」。プロのアスリートを支える食事はスポーツキッズや、部活男子、部活女子にも役立つ知識が満載です。


「一流アスリートの食事 勝負メシの作り方」

出版社:三五館

著:細野恵美

価格:1,300円(税抜き)

 


試合前には糖質こそが必要。もっとも誤解された栄養素「糖質」

最近「糖質制限」という言葉がよく聞かれるが、糖質ほど誤解されている栄養素はない。糖質の代表的な食品であるお米を日本人は古来より大切にしてきた。ところが、今になってその価値を見失いはじめているのだ。「お米を食べると太る」などと、アスリートでさえ誤解している。

では糖質とは何か。三大栄養素の糖質、タンパク質、脂質はいずれもエネルギー源になる。このうち、もっとも高いエネルギー源になるのは脂質である。

糖質とタンパク質は1グラムで約4キロカロリーのエネルギーを生む。それに対して、脂質は1グラムで約9キロカロリーになる。だからといって、脂質がエネルギー源として優れているわけではない。タンパク質もそうである。脂質やタンパク質は消化・吸収に時間がかかり、糖質と比べると、むしろ効率の悪いエネルギー源なのである。

それに対して、糖質は消化吸収も早く、エネルギー源としてもっとも優れている。したがって、エネルギーを最大限に使う試合の前には、糖質を十分に補給しておく必要がある。

「糖質」とは炭水化物のこと

糖質のイメージをややこしくしているのは、その名称も関係しているだろう。糖質といったかと思うと、「炭水化物」と呼ぶこともある。「でんぷん」という場合もある。ここではっきりさせておこう。一般的には、糖質と炭水化物は同じ意味として扱われている。

重要なのは、糖質は単糖類、二糖類、多糖類に分類されること。

単糖類はブドウ糖や果糖などのことで、バナナやオレンジ、リンゴなどが当てはまる。

二糖類には麦芽糖、ショ糖、乳糖などがある。ショ糖はいわゆる砂糖のことである。

多糖類にはでんぷんやグリコーゲンなどがあり、米、小麦、トウモロコシ、イモ等が当てはまる。

単糖類は消化吸収が速く、すぐにエネルギー源として使われる。次に速いのが二糖類となる。多糖類はそれらと比べると、消化吸収に時間がかかるが、その分腹持ちがいいのだ。

勝負メシは、こうした炭水化物が中心の食事ということである。

握り飯(おにぎり)は最高の勝負メシ

勝負メシとは、徹底的にエネルギー源としての糖質を重視した、戦う準備のための食事だ。実は握り飯(おにぎり)は古くから勝負メシとして知られてきた食べ物で、栄養学的にも証明できる。

握り飯1個は180キロカロリーほどだが、腹もちがいい。鮭のおにぎりなら、タンパク質も同時に補給できる。海苔を巻いて作れば糖質をエネルギーに変える時に必要なビタミンB1やB2も取れる。塩分もカルシウムも摂取できる。携帯に便利で、どこでも食べることができる。しかもいざという時の握り飯は、とりわけおいしく感じるのだ。

糖質制限ダイエットは本当に効果がある?デメリットは?

今、ブームになっている「糖質制限ダイエット」がある。ごはん、めん類、パスタ、パンなどの炭水化物食を制限するが、脂肪、タンパク質は制限しないというダイエット法である。厳しいカロリー制限ダイエットで苦労をしてきた人たちには、これは朗報だろう。実際、日本ではこの方法が糖尿病の治療に用いられ、効果を上げているという。

しかし、健康な成人が行うダイエット法という面ではどうだろうか。

三大栄養素であるタンパク質、脂質、糖質の比率はそれぞれ15%-25%-60%がバランスが良いとされている。「エネルギー産生栄養素バランス」と呼ばれているものだ。このバランスを無視して、糖質を選らしてタンパク質や脂質をたくさん取り続けると、体には困った事態が出現する。

たとえば、タンパク質はエネルギー源にもなるが、やはり重要なのは筋肉などの体の材料になること。ところが、糖質を減らすとタンパク質がエネルギーに変換されて、体の材料にならなくなってしまう。

アスリートがこれを無視すると、筋肉そのものが衰えていく。運動をすると筋肉も一部壊れて補修が必要になる。しかし、運動自体にたくさんのエネルギーが使われるので、補修に必要なエネルギーが不足してしまうことになるのだ。

さらに糖質制限ダイエットの最大の問題は、これまでの医学的な考え方との大きな矛盾である。

国立がんセンターが長年の研究からまとめた「がんを防ぐための12か条」の大きな柱の一つが「バランスのとれた栄養であり、脂肪のとりすぎを控える」ことなのである。また高血圧、心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防としてもほとんどの医師が栄養バランスのいい食事をめざしている。つまり糖質制限でダイエットに成功したとしても、同時に病気になる可能性も高いのである。


 

細野恵美(ほその えみ)

『一流アスリートの食事 勝負メシの作り方』著者。管理栄養士。

1977年、千葉県千葉市生まれ。大学卒業後、大手飲料メーカーに勤務する中で栄養学に興味を抱き、東京健康科学専門学校に入学、管理栄養士の道へ。2005年から2010年まで千葉ロッテマリーンズにおいて選手の栄養管理を行い、その間チームは日本一を2度達成。その後、森永製菓(株)ウィダートレーニングラボに入社。浅田真央、錦織圭ら一流アスリートの管理栄養士として、選手の躍進を支える。現在は高梨沙羅を担当。遠征にも帯同しながら世界中を飛び回っている。栄養学に基づいた勝負メシの作り方を初公開した『一流アスリートの食事 勝負メシの作り方』がデビュー作。