スロー食育記 こめ編

忙しすぎる夫婦が試した、ゆるめの食育

「育児って本当・・・、大変だね。」 共働きの妻とはよくこう話していた。 生まれてすぐは、「夜、なかなか寝ない問題」、「よく泣くのでおちおちトイレも行けない問題」 が一番きつくて、成長するにつれて、離乳食をつくる問題、さらに職場復帰するとますます時間がない。食育とかとても無理・・・まぁまぁ無理をしないことだ、ゆるめでいい、できることからやろう…そう自分たちに言い聞かせて、なんとか、「離乳食」及び「卒乳後のこども食」を、肩の力を抜いて、できることからやりだした。これが僕のスロー食育の始まりだ。

十倍粥を作るときのお米と水について

十倍粥

 

生後5か月半ほど、ちょうど新年だし(我が家の長女は7月生まれ)、と、初めて離乳食を作った。やっぱりまずはお米だ。この子に、ごはんのおいしさを伝えたい。初めの一口は「おかゆ」だ。材料はお米と水。日本はお米も水も水準が十分高いので、有機栽培とか無農薬栽培とかそんなにこだわらなくても普通に近所やネットで売っているお米で構わない。

日本では、生産者(農家)の方は良心的で、多少でも基準に満たないものは信用にかかわるからと自主的に出荷しないことに加え、米卸業界も産地情報を取引先や一般消費者に伝達することが法律において義務付けられている(米トレーサビリティ法[1])。さらに、お米の消費量(私たちの食べる量)が減り続けている中(毎年約8万トンずつ!)、私たちに食べてもらうために国としてもありとあらゆる工夫をしている[2]。およそ日本国内において、どこでどの米を買ったって全く心配要らないのである。少なくとも僕は心配していない。

米の銘柄にもこだわりはない。銘柄よりもむしろ鮮度の方が美味さへの影響度合いは大きいと思うが、そもそも売り場にそんな古い米は置いていない(流通していない)ので、心配せずに買っている。あれば積極的に買うようにしているのは無洗米だ。無洗米は最近ではコンビニでも2kg袋が売っているくらいメジャーになった。1カップ計って炊飯器に入れて水を張るだけ、とても楽である。

使う水は水道水。こだわりはない。ほとんどの調理過程(お米を炊く、味噌汁、鍋料理など・・・)では加熱するのである。水道水で全く問題ない。試しても差は感じない。それでも、どうしても気になるという人には、蛇口に取り付けるタイプの浄水器が便利かもしれない、と伝えるようにしている。「タンクからお湯・冷水が出るウォーターサーバー」も元々好きなのであれば止めないが、離乳食・こども食に際してわざわざ導入する必要性はない。サーバー本体が場所をとる(いくらスリムと言っても・・・)、交換用のタンク水(1箱12L?2箱以上買うとお得と言われても・・・)も場所を取る。なお、我が家が、ミネラルウォーターを使うのは唯一、飲み物として水を飲みたいときだけである。通販で、適宜2Lペットボトルを頼めば、最小経費、最小スペースで、満足度は変わらない。

とにかく料理を続けることを最優先に考える

時折、食材としての「お米や水」について相談を受けるが、アドバイスは一言でまとめると、『こだわるな』ということ。こだわりたいなら無理に止めはしないが、それよりも、どうやったら自分でも料理が続けられるかということに重点を置いて考えてくれたほうが、ずーっとこどものためになる。こだわりすぎた結果、有機栽培米を切らしたからご飯が炊けないと憤慨し、買っておいてくれなかった家族(食材を買う担当だった人)に八つ当たりし、怒った後に調理のやるきをなくしてもう菓子パンで済ます・・・、となってしまっては本末転倒である。最初からスローでいこうじゃないか。

毎日歯を磨くように作る

前置きが長くなってしまった。次に作る。自炊というのはメニューや手順を考えることに時間がかかる。ここの作業をいかに頭を使わず、苦を感じないルーティーンに落とし込めるかが肝。(なお、ここで言う、「ルーティーンに落とし込む」とは、例えば毎日歯を磨くのと同じように、誰でも、自然体で、忘れずに、続けられる習慣つくりという意味)

  • 【1回分を炊く基本形】: 普通に夫婦用にご飯を炊くときに、小さな耐熱カップ(離乳食おかゆ用として売ってる)にも米を15gと水を100ml入れ、このカップを炊飯器内のコメ、水の、上に設置して一緒に炊く。ラク。
  • 【炊けない時のための冷凍保存ストック】: とはいえ1日何回も炊くことはないだろう。忙しすぎて、朝に炊けなかったということもある。そんなときも気に留める必要はない。土曜か日曜かあるいは子どもが寝てくれたどこかで、小さな耐熱・対冷凍用のカップに、炊いたおかゆを数十グラムずつ、小分けして冷凍に放り込んでおくとよい。
  • 【加熱のコツ】:レンジで加熱が正攻法だが、熱くて冷ますのに時間がかかったりもする。そんな時はうちわが便利。他には「だしパック」などを水から沸かしてとった「おだし」を、凍ったおかゆにかけて伸ばすことでほどよく冷めただしがゆにもなる。

そうして初めて食べさせたおかゆ。そのときのあの笑顔!僕ら日本人でよかった、と謎の感慨とともに、この笑顔があるから、育児って超絶しんどいけど、やる気になって続けるのだろうな、と、温かい気持ちになった。

スロー食育のポイントは、まず理想を追いすぎないこと。続けることに重点を置くこと。絶対に無理をしないこと。これが正しいはずとか思い込まないこと。他人と比べないこと。

平成27年度農政施策の広報による女性の消費行動変化調査事業より抜粋

 

自分は自分。他人は他人。それでも気になる他人事情を覗いてみる

特に、作業の手間と時間を惜しまない主婦層向けの食育雑誌・女性誌の食育特集は危険だ。書かれていることは正論だが、自分で実施し続けられなければ意味がないのだ。自分は自分、他人は他人。僕らは、この子を育てつつ自分の人生もある、決して育児作業マシーンではないし、他人と育児の進捗を比べるために生きているわけでもない。と、強がってみるが
やっぱり気になってしまうのが人情というもの。時間感覚が近いワーキングママに、それとなく話を聞いてみた。「子どものことだから食事も気を遣ってあげたい」、「けれども、インターネットの情報は散逸的であったり、半ば宗教めいた執心的な食育の話もあったりして使いづらい」。

ふむふむ、悩みは似ている。日本の外ではどうだろう。
米国の名門コロンビア大学に留学していたとある米国籍の友人は、2歳になりたての子どもに、油分たっぷりのアメリカンなピザを食事としてあげていると言っていた。学業が忙しいからか・・・食育なんて全く気にも留めない国民性なのか・・・もちろんアメリカ人が全員そうではないだろうが、あまりそこにはコメントできなかった。関心のない人に強要するような話でもない。

やはり他人と比べてはいけないのだ。色々な考え方、方法がある中で、自分にあったスタイルを選んでいくしかない。これから、多様な食育のひとつの形として、忙しくても続けられる工夫や、選ぶ食材についてのコツなどをお届けしていきたいと思う。

それにしても、「あなた、そこまで育児に関わっていないのに、こんな偉そうなことを書いて!(ぷぅ)」、などと妻から言われてしまうかもしれないな・・・いい年をした大人が情けない話であるが、そんなちょっとした心配も抱えつつ、それはそれとして、今日も僕は朝の保育園へ子どもを送り、お迎えを妻にお願いする。

 


スロー食育・食材研究家 片岡修平

食への関心から、京都大学農学部食品生物科学科に進学、同卒。育児経験や、農林水産省への出向経験も踏まえた、「こどもの味覚を育てる食のポイント」の外部講演を都内随所で行う。テレビ朝日系「お願いランキングGOLD」に食の専門家50人として出演。共同研究には、離乳食・こども食へのだしの活用をうたう『和食まるごとBOOK』の冊子製作・広報効果測定を行った「平成27年度農政施策の候補による女性の消費行動変化調査事業」がある。
プライベートでは1児の父。(元々、自炊能力はある方だとの自負はあったものの、妻の料理能力の高さに完敗してからは、出すぎないように心がけている)。