忙しすぎる夫婦が試した、ゆるめの食育。スロー食育記


過去の食育記

スロー食育記】こめ編。まずは十倍粥をつくってみる


『だし』ってなんの効果があるの?どうやってとればいいの?離乳食にはいつから?いまさら聞けないんだけど・・・

だしこんな質問を、ママ友たち(前回にも登場したママ友である)から聞かれることが時折ある。

「・・・・だよね。わかる。。。」

私も妻も調べてみたことはあるが、いざネットで検索をかけると情報がとても散逸的なのだ。抱っこしながらのスマホで調べ疲れ。産婦人科でもらった離乳食情報のようなプリントはとっておいてよく読んだ。このほか、子どもがすんなり寝てくれた時に限られるが、久々に、いわゆる女性誌もよく目を通すようにしてみた。

僕が農水省時代に「和食まるごとBOOK」を作ったワケ

あれこれ目を通して分かったのは、きちんとした編集プロセスを経た雑誌の方が、散逸的なネット上の情報よりは幾分かましだということ。ただし選ぶ雑誌には要注意だ。内容がきっちりしている、紹介されている料理がとても美しいものは、実際に調理をする人がどれくらい忙しいか、というのは考慮してくれていないからだ。料理に数時間を使えることを前提に、ルールに厳格で、技巧を凝らした方向に向かっている。それが悪いとまでは言わないが、正直、共働きの10分が惜しい夫婦、とりわけ忙しい育児期において、実践的なのかというと疑問符がつく。「こんなにちゃんとできてない」と自己嫌悪に陥ってしまったり、「みんなこんなにやってるんだ!もっとやらなきゃ」と忙しい自分をさらにおいこんでしまったり、「私には無理…」と自信をなくしてしまう人、そして大概の人はそういう人だ、には薦められないのだ。 

はっきり言って、私の妻は料理が上手であると思う。本人も料理好きである。その彼女ですら尻込みするのだ。ましてや料理が苦手な方々にとっては、ますます、「だし」とか「和食」ははるかかなた雲の向こうの、縁遠いものに感じているのではないか

和食まるごとBOOK

農林水産省「「ベビーへの味覚の贈り物 和食まるごとBOOK」表紙

自分たちにぴったりのものがないなら作ったらいい!と手がけたのが『和食まるごとBOOK -ベビーへの味覚の贈り物- 』なのである。出版社と農林水産省の協力を得た共同研究だ。

育児期に入って少し食事に興味関心はあるけど忙しい!!!という人たちに向けて「忙しくても作ってみたくなる、だし、和食を薦めるポイント」、「忙しくても親子同時並行でつくれる、離乳食期の和食とりわけレシピ」などを載せた上で、とある女性誌の付録として展開した見開き12ページの小冊子だ。コンパクトなのでさっと読めるし、キッチンのすき間においていつでもぱっと読み返してほしい。

現在は農林水産省のウェブサイト上でPDFファイルがダウンロードできる。(この記事最下部からもダウンロードできる)

離乳食における「だし」と「和食」のキーポイント3つ

この「和食まるごとBOOK」で伝えたいのはたった3つのことだ。

  1. 『だし』は、子どもの味覚への最高のプレゼント 
  2. 『だしを用いた和食』は、難しくない!
  3. 実は、大人の料理と調理プロセスを途中まで共通に、効率化できるんです。

1.『だし』は、子どもの味覚への最高のプレゼント 

自分の経験から

料理のレベルは中の下である私も、味覚は割と鋭敏な方だという自負がある。それには、おそらく幼少期に食べていた味噌汁が効いている。私の母親は当時(1980年代)には珍しくフルタイムのワーキングマザーで、子どものころの私からみても忙しそうにしていた。それでも毎日味噌汁を炊いて、その中に野菜をどんどん放り込んでたっぷり食べさせてくれていた。4~5歳ころ、保育園で「よく野菜を食べてえらいね」「お味噌汁が好きなんだね」と言われて嬉しかったのをおぼろげながら覚えている。

他方、幼少期に「だし」を味わう経験はなかったという米国育ちの小学校時代の友達は、

「味噌汁はしょっぱいものならまだわかるけど、薄味のお吸い物の良さは正直わからない」、

「お寿司で炙りサーモンは好きだけど、それ以外の白身魚やマグロ等の良さは正直わからない。生臭い」と言っていた。この差は、もしかして、小さい時に「だし」を食していたかいないかの経験の違いなのでは?と思う。

有識者との対談から

私が大学で農学部食品生物科学科を専攻したのは、このような食経験と高校時代に読んだ、伏木亨(ふしき・とおる)京都大学教授の著書に感銘を受けたからだ。なお、偶然ながら、「和食まるごとBOOK」の1ページには、伏木教授のコメントをご寄稿いただいている。

その他にも専門家に話を聞いたり自分でも調べたりしたが、だしの旨味への見解はだいたい共通している。

  1. 砂糖の甘味とか、油脂の旨味、塩辛さ、などは、あとからでも覚えられる味覚。
    味がはっきりしていて、誰にでもわかりやすい美味しさがある。多くの人に人気のある食品はその3点を押さえているもの (ケーキ=甘味+油脂)(ラーメン=塩辛さ+油脂)。先にこちらを覚えてしまうと、繊細なだしの旨味を感じる味覚が育ちにくくなる。
  2. 「だしの旨味」は、砂糖や油脂に頼らずとも、ほっとする満足感を与えてくれる。ただし覚えにくい。
    砂糖や油脂に限らず、塩分なども抑えられるのがだしの凄さだ。繰り返しになるが、その旨味はとても繊細で覚えにくい。離乳食期から取り入れることがこどもの味覚への贈り物になる、というのはそのためだ。「旨味」がわかる日本人だからこそ、日本酒も日本食も発展してきた。

日本人は小さい頃から自然とこの繊細なだしの旨味を覚えてきたのだ。それが今、こども世代に伝えていくところで断絶が起きようとしている。なに、だし取りも和食も、ごくごく簡単なものなのだ。難しく考えず、ゆるゆるやれるところから始めようじゃないか。

 キーポイント(2)と(3)と、具体的なだしの取り方については次回にお伝えします。


スロー食育・食材研究家 片岡修平

食への関心から、京都大学農学部食品生物科学科に進学、同卒。育児経験や、農林水産省への出向経験も踏まえた、「こどもの味覚を育てる食のポイント」の外部講演を都内随所で行う。テレビ朝日系「お願いランキングGOLD」に食の専門家50人として出演。共同研究には、離乳食・こども食へのだしの活用をうたう『和食まるごとBOOK』の冊子製作・広報効果測定を行った「平成27年度農政施策の候補による女性の消費行動変化調査事業」がある。
プライベートでは1児の父。(元々、自炊能力はある方だとの自負はあったものの、妻の料理能力の高さに完敗してからは、出すぎないように心がけている)。